恐怖の家族物語(借金取り編)
それは私が21歳のころの話し(13年前)
あまり言えたものではないが、私はフリーの「債権回収代行業」もしていた。
まあ、簡単に言うと「借金とりたて人」なのだが、その中でもどうしても忘れられない摩訶不思議な債務者の話しをしよう。
取立人として一番やっかいな債務者とは「どうあがいても、お金がまったくない奴」である。
当時、かけだしだった私は「やっかいな奴がおるが、これも人生勉強だから」と債権者からの依頼で福岡市南区井尻(アパート多い町)へ雨の日に出向いた。
債務者の住所からたどり到着した家は、2階建てのアパートなのだが外観上普通の建築物と一つ違う点があった。
屋根瓦が1枚もないのである!
どう見ても築30年以上は経過したと思われる解体寸前のようなオンボロの8世帯住居用のアパートで、2階部分は玄関ドアも通路のガラスもないため、室内を通して一部空が見えている。
こんな幽霊アパートな訳きゃない!
こんなアパートに人間が住んでいる訳きゃない。と何度も住所を確認するが間違いないのだ。
そこで、アパートをよくみると1階部分の左側2番目だけ1枚のドアが付いている。
もしや!
っと思い、とりあえずドアをノック!
トントン!
すると「ハーイ」と50歳位のオバサンが出て来た。
このオバサンは市原悦子似で感じが良い人なんだが、◯◯さんでしょうか?と尋ねると「隣の隣よ」と声を荒げて思いっきり不機嫌にドアを閉めてしまった。
「・・・・・・・」ちょ~恐ろしい
急変したら野村幸代になっていた...
それも「隣の隣よ」って?
「・・・・・・・」
他も人が住んでいると言うではないか!
私はビビッてしまった、隣の隣にはドアが無い!
さすがに強固な「借金とり」の風格で来ている私でも怖い!
「ど・ど・ど・ないしよう~」冷や汗タラリ....
どないしよ~と考えながらも、ドアがない部屋をちらりと覗くと、まず玄関から6畳の台所がある、しかし2階の床と瓦がないので、1階なのに台所も雨が降っている。
ま・ま・ま・まじかよ!
人が住んでいるって言うのかよ!めちゃ怖い!
その奥には、ボロボロになった「ふすま」があって何だか人の気配がする・・・・
それがだ! その気配ときたら「アハァーン、アハァーン」っと、若い女性の声でおもいっきりSEXしている声なのだ!
怖い!
ど・ど・ど・ないしよう~
な・にの最中を邪魔したら私は殺されるかも知れん
最悪、そこの家で解体されて食べられるかも知れん
怖い!
「もう帰りたい!」
しかし、私もプロなので、話しもせずに帰る訳にもいかん!
そこで、逆ギレ防止策として、とりあえず「なに」が終わるまで10m 先に止めていた車で待つことにした。
その車内では、緊張しまくりで煙草ばかり吹かしていた。
待つこと30分!
動きがあった!
それが、何と学生服を着た「男子中学生」が、そのドアがない家から出て来た。
ものすごく、不思議ではあったが早速、中学生を呼び止め「◯◯さんの子供でしょうか?」と尋ねると「そう!」だと言う。
「お父さんは?」との問いには「お父さんもお母さんも家にいる」と言うではないか!
「・・・・・・」やっぱり怖い!
私の頭で想像するには、襖の向こうには建物の構造から推測しても1部屋(6畳程度)しかないはずだ!
と、云うことは家族同士で「なに」していたのか?!
この中学生の息子も「ちびまるこちゃん」に出てくる山田君のように挙動不審で、あさっての方向を向いてしゃべるのだ!
息子もある意味とてつもなく怖い!
しかし、息子が言った。
「汚い部屋ですけどどうぞ」と誘導してくれるのだ
私は考えた、罠かも知れんばい!(最悪、戦闘体制にだけはしておかなければ.....)
息子に続き入って行くと(もちろん土足)その息子は雨降る台所の前へ行き、そして私に忠告した!
「僕の踏んだ所を踏まんと床の落ちるばい!」
「・・・・・・」(このガキ何言うとんじゃ?)
そう言うと私に気づかいながら床に立った。
実は台所の床は、濡れていてよく解らなかったが、木製の床が腐っていてブヨブヨになっていたのだった。
そこで息子は梁(はり)のある場所を先に踏んで私に教えてくれるのだと理解した。
親切な良い息子じゃないか?(まあいいが....???)
しかし、その先に隠された部屋から聞こえてくるのは30分前から聞こえていた「アハァーン、アハァーン」の声.....
それが、今だに聞こえてくるのだ!
この襖を開けても良いのか?
どうなのか?
本当にいいのか?
と妙な心配をしてしまっているが、今は台所の床が心配で雨降りの梁の上を傘さして綱渡りのように無事に歩いていくのに神経を集中する事で精一杯だった。
そして、ついに襖が開いたのだ!
そこで目に入ってきたのは、なんと!
お父さん、お母さん、息子(案内人の弟:小学生)の3人でエロビデオを鑑賞している姿だった!
もう~嘘のでっちあげの話しとも思えるがまじなのだ!
と、いう事はさっきから家族4人で仲良くエロビデオの鑑賞中だったのか!
信じられん!
が、これが現実なのだ!
と、ここでお父さんが口をひらいた。
「どちら様でしょうか?」
私は「アハーン、アハーン」っとテレビから声がする中で「債権取立人の者です」と..
するとお父さんは、「うちには見てのとおり、お金なんかな~んもないよ」
私「・・・・・・・・」
確かに、お金がないのは見てわかる.....言葉がない!
ここで、部屋の状況を説明しよう。
6畳の畳の部屋にテレビ、ちゃぶ台、たんす1個、ミニ冷蔵庫1個のみ
ここですごいのは、この部屋には屋根があり、雨が降っていないことだ。(普通は当り前なのだが...台所は雨が降っていたことを考えるとスゴイ)
多分2階の床にビニールシートが敷いていると思う。
畳は壁からつたった雨でグジョグジョに濡れている為、黄色でしめす「板」とは、工事現場のから拾ってきたと思われる、幅60cm合版の切れっぱしが数枚重ねて敷いており、その上に家族みんなで体育座りで座っている。
テレビは赤色の古~い14型で、ビデオデッキ、照明機具は多分燃えないゴミで収集してきたものだと思われる。
壁は、しっくいの白い壁なんだと思うが、2階の建物木材から染みだした茶色の汁が方々に流れでて定着し異様な色をしている。
ガラス窓はあるがカーテンなどはない。
押入は襖が無いので丸見えで、中には汚い毛布が10枚程あるがこの家族は一体どこで寝るのか不思議である。
匂いは、合板の板の香りがしていて決して悪くはない。?
また、電気に詳しい私が感心したのは、こんな雨降りに屋根もないのに漏電せず、停電せずに電気が使えることだった。(以上、室内の状況説明)
私も仕事だから、いちおう言う事は言う「◯◯万円返済期限が切れています。支払ってくださいよ」
すると、お父さんは、また言う「うちには、お金なんかな~んもないよ」「見てわかるやんか。金があったらこげな暮らしはしとらんばい!」
(ほほぉ~ 見ごとに納得させられるお言葉だ.....)
いやいや、そんなので納得したら私は失格だ!
そこで、最後の手段として「テレビ、ビデオ、冷蔵庫でも利息分として持っていくけどいいですか?」
「あァ~ こんなので良かったら持って行っていいよ」
(こんなのゴミでしかないし、持って行ってもまた何処かで拾ってくるだけだ...)
「じゃ~今いくら持っとるんですか?」
「300円くらいです」
(財布を確認するまでもない金額である)
「仕事はしとらんのか!」
「夫婦共に前歯が無いので、働くところなんて・な・い・の」と言うと夫婦共に、ニヤリとして、前歯がまったく無いのを見せてくれる....
(前歯が無い顔は笑いを超えて怖く、おっしゃるとおりだった)
小学生の息子は、私を無視してテレビでアハァーンを見ているしで....
あ~!
こっちの方が頭おかしくなりそうだ!
私は限界だ!
「晴れたら、ゆっくりと話しをしにくるので金を用意しといてくれ」と強く言って、私はこの家逃げるようにして帰っていくのだった。
それから、数日後再度出向き、今度は近所にその家族の事を聞こうと情報を集めたら、いろんな事が解った。
まず、この家族の住むアパートの大家さんはケチで、10年前位からアパートは壊してしまおうという計画かあり、住民を引っ越しさせる手段としてアパートの修復をせず、結果、瓦無し、空部屋はドアガラス無しで住めない状態にしてきたらしい。
そして、一番興味を引かれた近所の方の話しでは「立ち退き料欲しさに、あの家族はねばっている」との事だった。
ショショショ ショック~!
そんな幽霊屋敷みたいな雨降る室内に10年も住んでいる家族を相手に取立てていたなんて私のレベルでは、とうてい太刀打ちできないことを知った。
なんて強わもの(家族)を相手にしていたのだろうか!
勝負しても負けるに決まっておるではないか!
私は身の程知らずでした...
負けました.....
トホホッ.....
私は再度、アハーン家族の玄関前までは行ったものの、こんな家族と関わってもこちらが頭おかしくなりそうだし、百円玉数枚もらっても、また来なければいけないのか?などと思ったあげく、ここの債権取立はあきらめることにした。
当然だが、債権回収に失敗すると、私が代りに返済しなければいけなくなるが、それも、これもどうでもよくなってしまった。
とにかく関わりたくないのだった!
借用書を書いているので、寸借詐欺にもあたらないし.....
また、この家に行っても誰もが債権回収をあきらめてしまうだろう.......
この家族は単純な馬鹿なのか?
それとも計算されたプロ家族なのか?
たがが、債権額1万6千円ゆえ私が支払ってやったが世の中は奥が深いと知った....
現在、どのような生活をしているのかは解らないけど、もしかしたら、ちゃんとしたお屋敷に住んでいるかも知れないな~
この家族は13年前に福岡市南区井尻に実在していた。
「摩訶不思議」は、昔し昔しの話しである。